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  • 2022年3月の記録

細井朱美さん

いい町には、いい居場所がある。

それは誰にでもひらかれた「おかえり」のある場所。焼肉屋「おおみ」はそんなお店だった。

このお店は朝市がひらかれる石畳の七間通りにある。ウリはなんといっても鶏肉メインの焼肉屋ということ。親鳥、せせり、山賊焼などなど、どれも美味しくしかもリーズナブル。何度も足を運ぶ県外のファンも多い。多くのファンを魅了するのは美味しさとそこに立つ店主のおばちゃんの存在にある。

 


店主のおばちゃんこと細井朱美さんは、お店の立ち上げからお手伝いとして始め約30年、カウンターに立ちお客さんのお腹を満たしてきた。もうすぐなんと80歳。その年齢にコロナが追い討ちをかけ、2022年の3月「おおみ」を閉店することを決めた。

「おおみ」の母体である「大美商店」は鶏肉の加工場が大野市のお隣「美山市」にあり、店舗は「大野市」にある精肉店。お肉屋さん直営の焼肉屋として七間通りで始める時、おばちゃんは54歳。ここだったら私にも手伝いができるのでは?と思いキャリアをスタート。

最初は34年くらいかなと思っていたこの仕事は気づけば30年近くも続けていた。今では店主として、常連さんからは「お母さん」と呼ばれ、多くのお客さんに愛される大野を代表する母の一人となった。

 




ここに集まる人はまるで家族のように「ただいまー」って言ってお店に入ってくるそうだ。おばちゃんは「ご苦労さん。思いっきり休みねん」って食事を出す。時には「お母さん、今から行くからね~」って遠方から電話をかけてきて、ここをめがけて大野にやって来る人もいる。また、自分の息子くらいの歳の子から悩み相談をされたり、昔カゴに入っていた赤ちゃんが大学生になって「ただいま!」って帰ってきたこともある。たくさんの人がお母さんを目指してやってきた。みんなが帰って来られる居場所、それがおおみ。

「お母さんって呼ぶ人が増えてくるとお母さんをやめられなくなるね。」いつもここでお客さんの帰りを待っていたおばちゃん。「お客さんにはなるべくゆっくり休んでもらって、おもいっきりお腹いっぱいになって帰って欲しい。」大切にしていることは、安心してお腹いっぱい食べられるお店であること。そう思って続けてきた中、コロナウィルスの蔓延によって世の中の価値観は変わった。今まで通りにしていては安心が保証されなくなった。



一番辛いのは、「お客さんにお願いすることが増えたこと」だとおばちゃんは言う。お店の前にはコロナ感染予防の張り紙をし、店内を消毒、ただただ美味しい食事を提供するだけではなく、他のことにも気をとられ、ほんとうに骨が折れた。それを見ていたお子さんたちもおばちゃんを心配してくれて無理せんと辞めてもいいんやって言ってくれた。

 

このお店はおばちゃんそのもの。常連さんと家族に支えられ、ずっと見守られてきた場所。


閉店まであと数日となったある日。

昔は夜に働くことに文句を言っていた夫も「頑張れな」って言って送り出してくれたそうだ。

お店を閉めたあとはどうするんですか?って聞くと

「畑でスイカやらメロン作るで、できたらあんたらにも食べさせてあげるでの!」って笑ってた。場所はなくなってもみんなのお母さんであることは変わらないんだなって思う。


お店がなくなることは寂しいし、もう食べれらなくなることは本当に残念だけど、おばちゃんには心から「お母さんありがとう。お疲れさま、ゆっくり休みねんの」って言いたい。

 

七間おおみ
細井 朱美さん
歴 史 1990年ー2022年3月

CREW

  • text:桑原 圭
  • Photo:長谷川 和俊